大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 平成2年(ワ)822号 判決

主文

一  被告有限会社ニート産業は、原告から各商品一枚宛につき別紙「新規製造単価、預かり保証金及び未回収枚数」中の各商品に対応した「預かり保証金(一枚当り)」欄記載の金員の支払を受けるのと引換えに、同別紙中の「未回収枚数」欄記載の各枚数の商品を引き渡せ。

二  もし右引渡の強制執行が不能のときは、被告有限会社ニート産業は、原告に対し、同別紙中の執行不能な商品に対応した「新規製造単価」欄記載の各金額の二分の一から「預かり保証金(一枚当り)」欄記載の各金額を控除した額に執行不能の枚数を乗じた額の金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告に対し、金五八九万八八五〇円及びこれに対する平成二年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告有限会社ニート産業は、原告から金一五六万七〇七二円の支払を受けるのと引換えに、原告に対し、別紙「預り金明細」記載の品名、未回収枚数の商品を引き渡せ。

2  もし右引渡の強制執行が不能のときは、被告らは、原告に対し、連帯して、強制執行が不能となつた商品につき、別紙「未回収による商品新規製造のための損害額計算書」記載の各品名に対応する「差額」欄記載の金額に被告有限会社ニート産業が引き渡せない枚数を乗じた金員を支払え。

3  被告らは、原告に対し、連帯して、金二八六七万六七三一円及びこれに対する平成二年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、クリーニング業、清掃用品の貸付及び製造販売等を業とする会社である。

(二)  被告有限会社ニート産業(以下「被告会社」という。)は、清掃用具のレンタル、清掃等を業とする会社であり、被告古瀬好男(以下「被告古瀬」という。)は、被告会社の代表取締役である。

2(一)  原告は、昭和四四年二月一九日、被告古瀬との間で、以下の内容の代理店契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 原告は、被告古瀬に対し、原告指定の代理店出荷価格で化学ぞうきん、モツプ等の商品を提供する。

(2) 被告古瀬は、右商品をリーフアー(家庭訪問員)又はユーザー(顧客)に対し、原告指定のレンタル料金で賃貸し(リーフアーは、これを更にユーザーに賃貸する。)、一定期間経過後、ユーザーから汚れた商品を回収して原告に返還する。

(3) 被告古瀬の原告に対する賃貸料の支払については、商品注文時に現金支払もしくは注文日より起算して四〇日目の約束手形で支払う。

(4) 原告は、被告古瀬が代理店を開設した後、同被告の要望により、販売技術、販売方法等に関し出張指導を行うものとする。

(5) 被告古瀬は、原告以外の業者より本件契約と同種の商品の納入を受けたり、又は原告以外の業者に加工させたり、類似品の作成をしてはならない。

(6) 被告古瀬は、代理店営業を他に貸与、譲渡してもさしつかえないが、この場合は原告の承諾を得るものとする(以下「本件条項」という。)。

(7) 被告古瀬が本契約に違反した場合は、直ちに代理店営業をなす権限を喪失する。また、被告古瀬がこれを放棄した場合も同様とする。

(二)  本件契約の実質は、いわゆるフランチヤイズ契約であつて、フランチヤイザー(本部・原告)は、フランチヤイジー(加盟店・被告古瀬)に対し、その商号、商標、経営ノウハウ等の使用を許諾し、同一とみられるイメージのもとに商品の賃貸等を行う権利を与え、かつ、その事業の成功のために継続的に指導援助し、これに対してフランチヤイジーは一定の対価を支払、かつ、本部の指導する集団としての統一性を保持しつつ事業を経営することをその本質的内容とするものである。右理念に基づき、原告は、被告古瀬らフランチヤイジーに対し、特定のサービスマーク(ママピカツト入リマーク)及び原告が商標登録をしている商標(ピカツトマーク)その他の商標を使用して同一のイメージの下に、原告の提供する化学ぞうきんの賃貸等の事業を行うことを許諾し、経営に関する教育、指導を行うほか、原告が製造賃貸する商品(総称してママピカツト商品)の商品イメージを高めるために、ピカツト・ダイアリー、ピカツト手帳等を多数無償配付したり、ピカツトニユースを発行するなどしてサービス、宣伝を行うなどしてきた。

3  被告会社は、昭和六〇年三月一日ころ、被告古瀬の原告に対する本件契約上の地位を承継し、原告はこれを承諾した。

4(一)  被告会社は、平成二年二月二八日ころ、株式会社ダイオーズレンタルサービス(以下「ダイオーズ」という。)に対し、原告の承諾を得ることなく、以下の内容でその営業権を譲渡した。

(1) 被告会社がダイオーズに譲渡する営業権の内容は、次のとおりとする。

① 被告会社が現に取引関係を有している顧客の名簿

② 右顧客が、新たにダイオーズとの継続的取引関係を結ぶことを承諾させるような被告会社の信用力

③ 商品ブランドが被告会社からダイオーズに変更することを抵抗なく顧客に受け入れさせるに必要な被告会社の従業員に対する顧客からの信頼感

④ 営業上必要な什器、備品(車三台、コピー、フアツクス)

(2) 被告の営業権譲渡に対してダイオーズが被告会社に支払う対価の計算方法は、被告会社の四週基礎売上を八倍し、これに七二〇万円を加算したものとする(後に合計三五二〇万円とされた。)。

(3) 被告会社の従業員は、原則として、ダイオーズの従業員として雇用し、その待遇は、これまでの基準を下回ることのないようにする。

(二)  ダイオーズは、その後顧客との間で取扱商品を原告会社の商品から関連会社(株式会社ダスキン)の商品に切り換えていつた。

5  被告会社の責任

(一) 債務不履行責任

被告会社は、原告の承諾なくしてその営業権を第三者に譲渡したものであり、これは本件条項に違反する上、信義則に照らしても著しい背信行為であるから、債務不履行に該当する。したがつて、被告会社は、これにより原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 不法行為責任

仮に、被告会社の営業権譲渡行為が債務不履行にならないとしても、次のとおり不法行為を構成する。すなわち、本件契約に基づくフランチヤイズシステムの下で獲得された得意先である顧客は、いわゆる「のれん」を形成するものとして原告に帰属するもので、財産的価値を有する法益である。被告会社がダイオーズに顧客を紹介譲渡した行為は、原告に帰属するのれんを、社会的に是認されない不公正かつ背信的な方法で喪失せしめたものであるから、原告に対する不法行為を構成する。したがつて被告会社は、これにより原告が被つた損害を賠償する責任がある。

6  被告古瀬の責任

(一) 被告古瀬は、被告会社によるダイオーズへの営業権譲渡当時、被告会社の代表取締役として、被告会社が原告に対して債務不履行ないし不法行為による損害を与えることのないように、営業権譲渡につき原告の承諾を得るべき任務を有していたにもかかわらず、右任務に違反して、被告会社とダイオーズとの間で営業権譲渡契約を締結させたものである。被告古瀬は、営業権の譲渡には原告の承諾を要することを認識していたのであるから、右任務懈怠につき悪意もしくは重過失がある。したがつて、被告古瀬は、有限会社法三〇条の三第一項に基づき、被告会社の債務不履行もしくは不法行為により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告古瀬が被告会社の代表取締役として原告の承諾を得ることなく自らダイオーズへの営業権の譲渡契約を締結した行為は、被告古瀬個人としても原告に対する不法行為を構成する。したがつて、被告古瀬は、これにより原告が被つた損害を賠償する責任がある。

7  原告の損害

(一) のれん喪失による損害

原告は、被告会社による営業権譲渡により、顧客を中心とするのれんを喪失するという損害を被つた。原告と被告会社との昭和六〇年九月一日以降平成二年二月二八日までにおける実績取引高は、粗利年平均六三七万〇七五九円であるところ、ダストコントロール(化学ぞうきん)業界では、いわゆる「のれん」の喪失による損害の額の算定にあたつては、年平均粗利高の約五倍をもつて通常の相場とする。また、のれんを含む営業権全体の実質的評価額は、契約存続期間、年間総取引高、顧客数等、過去及び現在までの実績を考慮すれば、約四〇〇〇万円である。したがつて、被告会社にもフランチヤイジーとして潜在的持分ないし寄与分が存在することを斟酌しても、原告が右営業権を喪失したことによつて被つた損害は二〇〇〇万円を下らない。

(二) 商品の未返還による損害

被告会社は、本件契約が終了した後も後記8(二)(1)のとおり賃貸商品を原告に返還せず、その結果、原告は、以下のとおり損害を被つた。すなわち、商品を一回レンタルすることによつて原告が得られる利益は、ユーザーへのレンタル料から使用料(原告から被告会社に対する賃貸料)を減じた額であるところ、商品一枚は通常三〇回の使用に耐えうるが、商品の中には新品も再生品も存在するので、商品一枚の使用回数を一五回として計算すると、商品が通常の流通におかれ回転したならば、原告は、別紙「未回収商品使用利益計算書NO.1及びNO.2」記載のとおり、合計七八七万六一二二円の利益をあげることができたはずであるから、被告が本件契約終了にもかかわらず商品を原告に返還しないことによつて、原告は、右同額の損害を被つた。

(三) 商品の返還遅延による損害

被告会社は、本件契約終了後、商品の通常の回転期間(家庭用商品及び業務用タオルは約六五日間、業務用モツプ及び業務用マツトは約三五日間)を超えて原告に対する賃貸商品の返還を遅延し、そのため、原告は、別紙「商品遅延による逸失利益計算書NO.1ないしNO.6」記載のとおり、商品を通常の流通におけば得ベかりし利益合計八〇万〇六〇九円を喪失し、同額の損害を被つた。

8  本件契約終了による未回収商品の返還請求

(一) 被告会社は、営業権を原告の承諾を得ることなくダイオーズに譲渡したものであるから、本件契約に基づき本件営業権を直ちに喪失した。そこで、原告は、被告会社に対し、平成二年四月六日到達の内容証明郵便をもつて、その旨を通告した。

(二)(1) 原告は、本件契約締結当時から平成二年三月ころにかけて、本件契約に基づき、別紙「未回収枚数集計表NO.1ないしNO.4」の「品名欄及び出荷欄」記載のとおり、被告会社に商品を賃貸した。そのうち、平成四年六月二日現在における未回収商品は、「同表NO.5及びNO.6」の「品名欄及び未回収枚数累計欄」記載のとおりである。他方、原告は、別紙「預り金明細」記載のとおり、右未回収商品につき、被告から預かり保証金として合計一五六万七〇七二円を受領している。

したがつて、原告は被告会社に対し、営業権の喪失に基づき、一五六万七〇七二円の支払を受けるのと引換えに、右未回収商品の返還を求めることができる。

(2) 右未回収商品の各新規製造単価から預かり保証金を控除した額は、別紙「未回収による商品新規製造のための損害額計算書」の「差額欄」記載のとおりである。

したがつて、右未回収商品に対する強制執行が不能となつたときは、原告は被告らに対し、連帯して、右差額欄記載の金額に執行不能の商品の枚数を乗じた金額の支払を求めることができる。

9  よつて、原告は、被告ら各自に対し、営業権の無断譲渡による債務不履行、不法行為又は有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償として合計二八六七万六七三一円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成二年九月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社に対し、本件契約終了に基づき、預り保証金一五六万七〇七二円の支払を受けるのと引換えに別紙「預り金明細」記載の未回収商品の返還を求め、その執行が不能な場合の損害賠償請求として、被告ら各自に対し、執行不能な品目ごとに別紙「未回収による商品新規製造のための損害額計算書」の「差額欄」記載の金額に執行不能の枚数を乗じた金額の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1(一)及び(二)は認める。

2(一)  請求原因2(一)は認める。

(二)  同(二)は否認する。本件契約は、一般的な継続的商品供給契約を内容とする代理店契約に過ぎず、原告の主張するようなフランチヤイズ契約ではない。本件契約締結に際し、原告からその経営理念、営業、管理等の経営指導、ノウハウ等の説明を受けたことは一切なく、本件契約締結後も具体的な指示や営業指導が行われたこともない。また、原告の商号・商標であるエルゼやピカツトでは、株式会社ダスキン等の同業他社に比して競争力及び信用力が低かつた上、原告は、販売促進のためのテレビ・ラジオ・新聞・雑誌等のメデイアを利用することはなく、見本品も極めて少量であつたため、被告らは、原告の援助による宣伝・PR活動や経営指導等の恩恵を受けることなく顧客を開拓せざるを得なかつた。

3  請求原因3は認める。

4  請求原因4(一)及び(二)は否認する。被告会社は、本件契約に基づく代理店営業を廃止するにあたり、株式会社ダスキンの商品を扱うダイオーズに対して顧客を紹介したに過ぎない。ユーザーがどこの商品を選択するかは各ユーザーの自由である。

5  請求原因5(一)及び(二)は争う。本件条項に規定する「代理店営業」とは、ママピカツトという商標・サービスマークを用いて化学ぞうきん等のレンタル業をいうと解されるが、被告会社は、ダイオーズに対し、右のような営業を行うことを認めたことはなく、単に顧客を紹介したに過ぎないから、これについて原告の承諾を得なかつたとしても、何ら右条項に違反するものではない。仮に被告会社の行為が右条項に違反するとしても、同被告としては、代理店営業を廃止する意向のもとに原告に対してその営業権の買取りを打診したが、その決済時期や細かい条件等について話が進まず、このままでは業務が遅れてユーザーに迷惑がかかるおそれがあつたので、原告に営業権を譲渡することを取り止めて、やむを得ずダイオーズに顧客を紹介することとしたものである。したがつて、被告会社としては、取るべき手続きは尽くしており、右行為には違法性がない。また、被告会社がダイオーズに紹介した顧客は、原告の援助等による恩恵を受けることなく被告らが独力で獲得したものであつて、被告会社に帰属する営業財産の一部であるから、これをダイオーズに紹介したとしても原告に対する関係で債務不履行ないし不法行為を構成するものではない。

6  請求原因6(一)及び(二)は争う。

7  請求原因7(一)ないし(三)は否認する。「のれん」喪失による損害額を年平均粗利高の五倍として計算するというような相場は存在しておらず、原告の請求金額は過大である。また仮に、被告会社から返還未了の商品があつたとしても、その分については在庫から充分補充可能であり、不足したとしても別途製造注文すれば一週間程度で補充できるのであるから、せいぜい商品流通が一回遅れるかどうかという程度である。

8(一)  請求原因8(一)のうち、被告会社が原告主張の通告を受けたことは認めるが、その余は否認する。

(二)  同(二)(1)及び(2)は否認する。被告会社は、平成二年五月八日、原告に対し、別紙「(有)ニート産業・(株)エルゼに於いて、未使用商品返品数量及び汚品回収返送数量相違について」の「①欄」記載のとおり、未使用商品を返還したほか、平成二年三月一三日から平成四年五月三一日にかけて、別紙「汚品回収返送集計表NO.1及びNO.2」記載のとおり、使用済みの商品の返還を行つた。その結果、被告会社は、現在、原告に返還すべき商品を所持していない。なお、平成二年三月一三日以前の取引についてはいずれも原告及び被告会社の間で確認の上清算済みであり、少なくともこの時点では未回収商品は存在しない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)及び(二)(当事者)、同2(一)(本件契約の締結)及び同3(本件契約の承継)は当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実に、甲第三号証、第五号証、第九ないし第一六号証、第二五号証、第二六号証の一ないし九、第三七ないし第四四号証、第四七ないし第五〇号証、第六三、第六四号証、第七〇ないし第七三号証、第九三号証、乙第二ないし第四号証、第三四ないし第三六号証、商人髙倉憲治、同大津和洋、同鹿島田隆男、同伊藤惇の証言(一、二回)及び被告代表者兼被告本人尋問(一、二回)の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  被告古瀬は、かねてから、父親の経営する公衆浴場(神代湯)の業務に従事する傍ら、清掃業務についても関心を有していたこともあつて、昭和四四年一月ころ、原告の開催した代理店募集の説明会に参加してダストコントロール事業の概要等につき説明を受けた上、同年二月一九日、原告との間で本件契約を締結(甲第三号証)した。

2  被告古瀬(昭和六〇年三月以降は被告古瀬が代表取締役を務める被告会社に業務を承継した。)は、主として東京都調布市及びその近隣地域において代理店業務を行い、知人の紹介を受けるなどしてリーフアー(家庭訪問員)の募集獲得に務める一方、右のリーフアーを介してもしくは直接に個々の家庭を訪問するなどして、原告の製品であるモツプやマツト類のレンタルのユーザーを開拓していつた。その際、原告からは、リーフアーないしユーザーの斡旋や紹介等はなかつたが、原告は、被告古瀬ないし被告会社からの要望に応じて、拡販のため原告の社員を派遣することもあつた。

3  本件契約に基づき、被告古瀬ないし被告会社は、リーフアーを介して又は直接にユーザーからママピカツト(原告の商品であるモツプ、クロス等の総称。)のレンタルの注文があると、在庫商品の数も計算に入れてこれに見合つた数の商品を原告に発注し、原告から被告古瀬ないし被告会社に納品された商品は、リーフアーを介して又は直接に各ユーザーにレンタルされた上、数週間後にリーフアーによつて又は直接に新品と交換回収され、被告古瀬ないし被告会社から原告に返却されていた。原告は、回収された商品のうち、再生不適格なものは廃棄処分とし、再生に適するもののみを再生加工して再度流通に乗せており、流通回数は、商品により差があるが、概ね三〇回転させることにより償却できるように計算されていた。被告古瀬ないし被告会社は、原告に商品を注文する際、各商品につき定められた使用料及び保証金の合計額を原告に納入し、使用済みの商品を原告に返却する際、これに対応する額の保証金を原告から返還受領していた。他方、リーフアーは、被告古瀬ないし被告会社から未使用の商品を受領する際に定められたレンタル料金を支払い、ユーザーに商品を賃貸する際、ユーザーからレンタル料金を受領するほか、使用済みの商品を被告古瀬ないし被告会社に返却する際、所定の手数料を受領する仕組であつた。

4  被告古瀬ないし被告会社は、原告の登録商標であるピカツトマークの入つた自動車を使用してその商品であるママピカツトのレンタル業務を行つていた。原告は、その商品であるママピカツトのイメージアツプのため、パンフレツト、ピカツトダイアリー及びピカツト手帳等を作成して被告古瀬らの加盟店ないし代理店、リーフアー及びユーザーへ無償で配付したり、ピカツトニユースを発行して紙上で優秀リーフアーの表彰を行つたりするほか、無償援助商品を提供したりすることもあつた。

5  被告古瀬は、平成二年一月ころ、原告に対し、公衆浴場の経営に専念するために被告会社が行つている代理店営業を中止したいこと、被告会社の従業員が同社の営業権を購入したいとの意向があるが、最終的に話がまとまらなかつた場合には原告が譲渡先を紹介するか原告自身が購入することも含めて検討してもらいたいこと、その際の譲渡代金額としては、被告会社の代理店営業による粗利一か月分約二〇〇万円の一〇か月分に預かり金八〇〇万円、その他二〇〇万円で合計三〇〇〇万円を希望することなどを提示した。

その後、被告会社の従業員による営業権購入の話はまとまらず、他方、原告の方では、被告会社の提示した金額で一旦営業権を買い取ることとし、同年二月八日、原告のピカツト事業本部営業部長伊藤惇及び東京本部本部長高倉憲治が被告古瀬を訪問してその旨を伝えた。ところが、被告古瀬は、譲渡条件を変更し、代金額三五〇〇万円に加えて顧問料として毎月三〇万円を二年間支払うという条件で検討してもらいたい旨提示し直した。

そこで、伊藤らは、再度右条件を持ちかえつて社内で検討することとした。その過程で、原告会社の加盟店である株式会社久賀屋商店が被告会社の営業権を買い取つてもよいとの意向を示したため、高倉は、同月一五日、同社の専務を同行して譲渡条件の交渉のため被告古瀬を訪ねた。ところが、被告古瀬は、髙倉らに対し、前言を翻えし、今回の営業権譲渡の件はなかつたことにして今後も被告会社が営業を継続する意向である旨告げた。

6  被告会社は、他方で、同年二月ころから、原告と競業関係にある株式会社ダスキンの商品を取り扱うダイオーズに対しても、営業権譲渡の意向があることを伝え、ダイオーズとの間で、譲渡の対象とする営業権の内容として、①被告会社が現に取引関係を有している顧客の名簿、②顧客が新たにダイオーズとの継続的取引関係を結ぶことを承諾させるような被告会社の信用力、③商品ブランドが、被告会社からダイオーズに変更することを抵抗なく顧客に受け入れてもらうのに必要な被告会社の従業員の顧客からの信頼感、④営業上必要な什器・備品とした上で、譲渡金額として、新たにダイオーズとの取引関係の成立した顧客の四週基礎売上額を八倍し、これに七二〇万円を加算した額とすること、原則として従業員もそのままダイオーズの従業員としてその業務を継続することなどの条件を提示した。被告会社は、その後、ダイオーズとの間で譲渡条件等について交渉を重ねた上、最終的な譲渡金額は明らかでないものの、同月末日ころ、ダイオーズとの間で、個別訪問により被告会社の顧客内容及び売上金額状況の把握を行うこと、譲渡金額算定については、顧客内容により譲渡顧客の売上金額の五倍ないし八倍程度とすること、掛け売り等の顧客については引き続き被告会社で供給することなどを確認した上で、右①ないし④の内容の営業権の譲渡を合意した(以下「本件顧客譲渡」という。)。そこでダイオーズの従業員と被告会社の従業員とは共同で、同年三月五日以降各顧客を訪問し、原告の商品からダイオーズの取扱商品(以下「ダスキン」という。)への移行を説得すると同時に、その対応を調査した。被告会社及びダイオーズは、同月二〇日ころ以降、ダスキンへの移行を承諾した顧客に対し、順次納入商品をママピカツトからダスキンに切り換えていつた。

7  他方、原告は、被告会社が営業譲渡の意向を撤回したことから、従前どおり被告会社が代理店営業を行つてゆくものと考え、これまでと同様被告会社からの発注に応じて商品を納入するなどしていたが、被告会社は、同年三月一九日に至つて、突如、原告に対し、被告古瀬の一身上の都合により同日をもつて代理店営業を廃業する旨の解約届を提出した。

以上の事実が認められ、乙第三、第三四号証及び被告代表者兼被告本人尋問(一、二回)の結果中、右認定に抵触する部分は、これを除く前掲各証拠に照らし、たやすく採用することができず、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠は存しない。

三  被告会社の債務不履行について

本件契約は、これをフランチヤイズ契約と呼称するかどうかはともかく、家庭用もしくは業務用のモツプ類のレンタルを内容とするものであつて、その性質上、いわゆるコンビニエンスストアやフアーストフード店のように、特定の商標及びサービスマークを使用して店舗を開設すれば顧客が右商標等を目印に来店して商品を購入するというようなものではなく、レンタル業者の側でリーフアーを活用するなどして積極的に戸々に営業活動を行つて顧客を開拓しなければならないものであるところ、前記二2認定のとおり、被告古瀬が原告との間で本件契約を締結してレンタル業務を開始するに当たり、原告から既存の顧客リストを引き継いだとかその紹介や斡旋を受けたということはなく、リーフアーについても、被告古瀬が個々に知人の紹介を受けるなどしてこれを募集採用し、右リーフアーを介しもしくは被告古瀬自ら営業活動を行つて顧客を獲得していつたというのであつて、このような本件契約の内容や現実の顧客獲得状況等に鑑みれば、本件においては、営業権の一内容としての得意先としての顧客は、第一次的には被告古瀬(承継後においては被告会社)に帰属するというべきである。

しかしながら、他方、前記二2、4認定のとおり、原告としても、販売拡張のため原告の従業員を派遣したり、組織的に原告商品の宣伝活動を行うなどして被告らの営業活動を支援してきており、また、原告の登録商標やサービスマーク等を使用することにより統一された商品イメージを利用して営業活動を展開し得たことが、被告らによる顧客獲得及び営業の進展に寄与してきた側面があることを否定することができず、殊に、被告らは、既存のレンタル業者として原告の商品も取り扱うようになつたというものではなく、原告との間で本件契約を締結したことにより初めてレンタル業を開始することになつたものであつて、原告の商品以外を取り扱つたことは一切なく、その営業利益につき全面的に本件契約関係に依存していたとの事情は、被告がその営業を廃止しもしくは他に譲渡するに際し原告に対していかなる義務を負担するかを検討するにあたつて、当然考慮に入れられるべき事柄である。

ところで、被告らは、本件条項における「代理店営業」とは、ママピカツトという商標・サービスマーク類を用いて行う営業の譲渡に限定され、単に第三者に顧客を紹介するに過ぎない場合には適用されないから、本件顧客譲渡が同条項違反として債務不履行となる余地はない旨主張する。なるほど、「代理店営業」との文言や、本件契約の契約書(甲第三号証)には、その譲渡につき原則自由ともとれるような記載の仕方がされていること等からすれば、同条項は、被告古瀬ないし被告会社が原告の代理店としてママピカツトのレンタル業務を行うという内容の営業権を譲渡しようとする場合を念頭においたものと解する余地がないでもない。しかしながら、同条項の趣旨を被告ら主張のように限定して解するということになると、原告の代理店としての営業をそのまま引継ぎ譲渡する場合には、原告は譲渡後の営業によつても利益を受けることができるため、原告にとつて比較的影響が少ないと思われるにもかかわらず、原告の承諾を要することになるのに対し、本件のように、被告らが原告代理店として獲得した顧客を競業他社に紹介譲渡する場合には、原告がそれまで行つてきた経営指導や宣伝等の被告らの営業の支援のための資金投与を全く無に帰せしめる結果となるにもかかわらず無条件に許されるという不合理な結果を招来することになるから、本件契約当事者の通常の意思にそぐわないといわなければならない。したがつて、同条項の趣旨は、原告の代理店としての営業をそのまま引継ぎ譲渡する場合はもとより、原告との本件契約関係を引き継ぐことなく顧客のみを競業他社に譲渡するという場合についても、原告において代理店営業の譲渡を承諾するか否かの権限を留保することとしたものであると解するのが相当である。そうすると、被告会社には、本件契約に基づく代理店営業の結果獲得した顧客を他社に譲渡しようとする場合には、原告の承諾を得るべき本件契約上の義務があつたというべきであり、原告が何ら正当な理由もなく右承諾を与えることを拒絶したとか、被告において他に投下資本を回収する手段がないなど右譲渡がやむを得ないとみられる特段の事情がある場合を除き、被告会社が原告の承諾を得ずにその顧客を他社に譲渡する行為は、右契約上の義務に違反するものといわなければならない。

本件においては、被告会社は、前記二6認定のとおり、原告に無断で本件契約に基づく代理店営業の結果獲得した顧客を競業他社であるダイオーズに譲渡したものであつて、前記認定の譲渡経緯に鑑みれば、本件顧客譲渡がやむを得ないとみられるなどの特段の事情が存在したということはできない。

したがつて、被告会社による本件顧客譲渡は原告に対する関係で契約上の義務不履行を構成するというべきであり、被告会社は、これにより原告が被つた損害を賠償する責任がある。

四  被告古瀬の責任について

被告古瀬は、被告会社のダイオーズに対する本件顧客譲渡当時、被告会社の代表取締役として、同社が本件契約上の債務不履行を行うことのないよう、原告に無断で本件顧客譲渡を行わないようにすべき任務を有していたにもかかわらず、被告古瀬自ら敢えてダイオーズに対する本件顧客譲渡を行つたものであつて、右任務懈怠につき悪意であつたというべきである。したがつて、被告古瀬は、有限会社法三〇条の三第一項に基づき、これにより原告が被つた損害を賠償する責任がある。

五  原告の損害について

1  被告会社がその顧客を競業他社に紹介譲渡したことによる損害について

前記判示のとおり、被告会社が有していた顧客は基本的には被告会社の努力により獲得したものであり、顧客に対する権利は第一次的には被告会社に属するものであるが、右顧客獲得には、原告も、その商標やサービスマークの利用を許諾すること等により寄与したものであつて、被告会社の顧客について営業上の一定の利益を有していたというべきであるから、被告会社がその顧客を原告に無断で競業他社であるダイオーズに紹介したことにより、原告は損害を被つたということができる。原告は、被告会社との間の取引による年平均粗利益の約五倍として右損害を算定する通常の相場が存在すると主張しているけれども、本件全証拠によつても右相場が存在することを認めることはできない。むしろ、前記二5認定のとおり、被告会社が原告に対して営業を譲渡しようとした際にその譲渡価格として同被告の粗利益の一〇か月分を一つの算定根拠とし、原告も右価格を一旦は了承していることに原告の新たな加盟店や顧客獲得に要する相当期間を考慮すれば、被告会社の本件債務不履行と相当因果関係を有する原告の損害(逸失利益)の額を算定するにあたつても、他に特段の事情も窺えない本件では、月平均粗利益の一〇か月分を基準とすることに合理性があるというべきである。そして、甲第二三号証の一ないし六及び前掲伊藤証言(一回)によれば、昭和六〇年九月から平成二年二月までの間における、本件契約に基づく原告と被告会社との間の取引による原告の粗利益(レンタル商品使用料売上からレンタル商品原価を控除したもの)の合計額は三一八五万三七九五円であることが認められ、これを前提に計算すると、月平均粗利益の一〇か月分は、五八九万八八五〇円(ただし、一円未満切捨)となる。

(計算式)三一八五万三七九五円÷五四か月×一〇か月=五八九万八八五〇円

したがつて、被告会社の本件債務不履行と相当因果関係のある損害額は、五八九万八八五〇円とするのが相当である。

2  商品の未返還ないし返還遅延による損害について

原告は、被告会社が本件契約終了後も商品を原告に返還せず、もしくは通常の場合より遅れて返還したことにより、商品を通常の流通におくことにより得べかりし利益を喪失したとしてその逸失利益額の損害賠償を請求しているけれども、右請求は、原告が被告会社から商品の返還を受ければこれを直ちに有効にレンタルし流通におけるだけの顧客を有していたことを前提とするものであるが、本件全証拠によつても右前提事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、この点に関する原告の主張は採用できない。

六  未回収商品の返還請求について

1  前記判示のとおり、本件契約には、本件条項に違反すれば営業権を喪失する旨の条項が含まれているところ、被告会社がその顧客をダイオーズに紹介譲渡した行為は、本件条項に違反するものであるというべきだから、被告会社は、本件契約に基づく営業権を喪失し、ひいては本件契約も終了したということができる。

2  前掲伊藤証言(二回)によれば、「未回収枚数集計表NO.1ないしNO.6」と題する原告作成の書面である甲第六七号証は、原告の台帳を基に集計作成されたものであることが認められるけれども、原告と被告らとの間の長年にわたる取引の過程での検収間違いその他の理由により未回収枚数にある程度誤差が生じ得ることは同証人自身認めているところ、前記未回収枚数の数値は、被告ら主張のものとかなり相違しているのみならず、原告作成にかかる平成四年六月三〇日現在の「加盟店別出荷回収集計表」(乙第三九号証)に記載された残存数量とも著しく食い違つているものであつて、前掲甲第六七号証記載の原告主張の数値をそのまま未回収枚数として採用するのは相当でない。他方、乙第一号証及び被告代表者兼被告本人尋問(一、二回)の結果によれば、昭和五九年一二月ころ、原告と被告会社との間で、未回収商品の枚数を確認する話が持ち上がり、各々が同月末日現在における未回収商品の実存残数を確認して乙第一号証を作成したことが認められるところ、被告らは、同号証中の被告会社実存残数を基準にその後の取引を行うこととした旨主張しているけれども、同号証中には、双方が確認合意した統一的な数値は何も記載されておらず、単に各々の確認した残存数が併記されているに止まる上、仮に昭和五九年一二月末日の時点で被告ら主張の実存残数を前提とするとしても、その後の出荷回収数について被告らの主張を裏付ける客観的な資料は存しないから、被告らの算出した数値(乙第三二号証の一、二)をそのまま採用するのも困難である。しかしながら、前記のような乙第一号証作成の経緯に鑑みれば、昭和五九年一二月末ころの時点で、原告においても、少なくとも原告と被告会社との間で未回収商品枚数に相当程度相違がみられ、数値を確定する必要があることは認識していたと推認されるところ、乙第三一、第三三、第三九号証、右尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五九年一二月の出荷回収集計表として未回収商品の残存数量等をも記載した乙第三一号証を作成したこと、原告は、昭和六〇年一月以降の出荷回収集計表についても、乙第三一号証の残存数量の記載を基に毎月出荷回収数を集計して作成しており、最終的には、本件契約が平成二年三月終了し被告会社が最後に商品を返却した後である平成四年六月の「加盟店別出荷回収集計表」(乙第三九号証)を作成していることが認められるのであつて、これらの事実に照らせば、原告において未回収商品の枚数が乙第三九号証の「残存数量欄」記載のとおりであると認識していたものというべきである。もつとも、品目によつては同号証中の残存数量欄記載の数値がマイナスになつているものもあり、右数値が精密なものとは必ずしもいえないが、原被告らのいずれの主張する数値も客観的な正確性のあるものではあり得ず、他により合理的根拠を有する数値が存在することが明らかにされない以上、同号証の数値を基準にすることが不相当であるということはできない。そして、同号証の「残存数量欄」に記載された未回収商品の枚数(別紙「最終受払残数、比較相違表」中の「②欄」記載の枚数と同値である。)は、そのうち数量において主要な商品とみられるママクロス等について被告らの計算主張する枚数(同別紙中の「①欄」記載の枚数)と著しい相違はないこと、被告らは、少なくとも昭和五九年一二月以降、原告が毎月作成する前記加盟店別出荷回収集計表に特段には異議を述べることなく取引を継続していたことを併せて考慮すれば、被告会社が原告に返却すべき未回収商品の枚数は、別紙「最終受払残数、比較相違表」中の「②欄」記載のとおりと認めるのが相当である。

3  したがつて、被告会社は、原告から、各商品一単位宛につき別紙「預り金明細」の「預かり保証金(A)」欄記載の額の保証金の返還を受けるのと引換えに別紙「最終受払残数、比較相違表」中の「②欄」記載の各枚数の商品(ただし、本訴において原告が返還を請求する商品を記載した別紙「預り金明細」に記載のない商品は除き、かつ、同別紙記載の未回収枚数を下回る商品については、その枚数とする。)を原告に返還する義務を負つているというべきである。

七  未回収商品返還債務の執行不能の場合の損害賠償請求について

1  原告は、被告会社の原告に対する未回収商品の返還債務が将来執行不能となつた場合に備えて、被告らに対し損害賠償を請求するものであるが、本件契約の当事者は、原告と被告会社であるから、商品の返還請求の相手方はもとより、右返還請求権が将来の不能により損害賠償請求権に転化した場合においても、その損害賠償義務者は本件契約当事者である被告会社であつて、被告古瀬個人が右損害賠償義務を負担すると解すべき根拠はないから、原告の被告古瀬に対する未回収商品の返還不能の場合の損害賠償請求は、理由がない。

2(一)  原告は、被告会社による商品返還債務の執行不能の場合の損害賠償として、各商品につきその新規製造単価に相当する額を請求しているけれども、商品返還債務の執行不能の場合の損害賠償額の算定にあたつては、将来の執行不能の時点に最も接着した時期である口頭弁論終結時の目的物の価額をもつてその基準とするのが相当であるところ、被告会社の返還すべき未回収商品が必ずしもすべて新品でないことは原告自身認めるところであるから、各商品につきその新規製造単価をもつて口頭弁論終結時の目的物の価額すなわち商品返還債務の執行不能の場合の損害賠償額と解することは相当でない。そして、前記二3認定のとおり、原告の商品は約三〇回程度で償却するものとして計算されていること及び原告と被告会社間の取引状況に鑑みれば、原告の商品は概ね一定の速度で流通回転していたものと推認されるから、本件口頭弁論終結時において、平均すれば各未回収商品は約一五回程度流通していたものと考えられるので、その価額としては、新規製造価格の半額と算定するのが相当である。

(二)  甲第六六号証並びに弁論の全趣旨によれば、各商品の新規製造単価は、別紙「未回収による商品新規製造のための損害額計算書」中の「新規製造単価」欄記載の各金額であることが認められる。

(三)  したがつて、被告会社による商品返還債務の執行不能の場合の損害賠償額は、右「新規製造単価」欄記載の各商品毎の金額にそれぞれ二分の一を乗じた額というべきである。

八  結語

以上によれば、原告の本訴請求は、被告会社に対して、本件契約終了に基づき、原告から各商品一単位宛につき別紙「新規製造単価、預かり保証金及び未回収枚数」中の「預かり保証金(一枚当り)」欄記載の金員の支払を受けるのと引換えに、同別紙「未回収枚数」欄記載の右に対応する各枚数の商品の引渡しを求め、右引渡の強制執行が不能なときは、執行不能な商品につき同別紙中の「新規製造単価」欄記載の各金額にそれぞれ二分の一を乗じた額から「預かり保証金(一枚当り)」欄記載の金額を控除した額に執行不能の枚数を乗じた額の損害賠償金の支払を求めるとともに、被告会社に対しては債務不履行に基づき、被告古瀬に対しては有限会社法三〇条の三第一項(取締役としての責任)に基づき、連帯して損害賠償金五八九万八八五〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成二年九月一六日から完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小山邦和 裁判官 村田龍平 裁判官 増森珠美は出張中につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 小山邦和)

別表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例